2010年9月24日金曜日

「島崎こま子 おぼえがき」 森田昭子著

私にとって藤村は「破戒」のイメージだった。
まっすぐで、知性にあふれ、世の中の矛盾をその身に果敢に受け止め、作品と化すことで生を全うした
稀有な人物。

しかし、「新生」が生まれたいきさつには失望させられた。
彼も弱い人間だったということか。
作家にとって、作品はその人そのものである。彼のしたこと、その後の彼の身の振り方すべては彼のそれまでの作品を裏切っている。
藤村が『戦陣訓』の文案作成に参画したということは知らなかった。
「破戒」と「夜明け前」しか知らなかったころは藤村がなぜ「戦陣訓」と結びつくのか、信じられなかったと思うが、「おぼえがき」で高麗子のことを調べ、「新生」後の彼の生き方を見ると自然の流れに思える。

尊敬する人物を一人失ったようで、寂しい。

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