2009年5月7日木曜日

父の命日

明日は、5月8日。5年前、77歳で亡くなった父の命日。
肺腺癌だった。

予感、というのは確かにあると思った。

あの日、あと1週間もつかどうか、と言われていたので必ず誰かが父の側に付いていることにしていたのだった。

病院に泊まって、母と交代して家に帰ったのが午前中だったと記憶している。夕刻、母が体調不良を訴えて家に帰ったと姉から聞いたとき、黒い不安が胸に広がってきて、いてもたってもいられなくなった。

すぐに着替えて、病院へ向かった。あのときの胸の動機、今も覚えている。名古屋駅で、私は走り出していた。地下鉄のホームまで、人とぶつかりそうになりながら全力で走った。走りながら、涙が出た。待ってよ、まだ今死ぬっていうわけじゃないのに、どうしてこんなに涙が出るのだろう?やめてよ、まるで本当に今、死んでしまうみたいじゃない。そんなことをつぶやきながら。

自由が丘の駅からがんセンターまで、坂道を12分。走った。あえぎながら。エレベータを降りて父の病室へ、看護婦さんたちがあわただしく立ち動いていた。

「ああ、いらっしゃった、今お母様にご連絡差し上げたところです。早く行ってあげて。ほんの5分前まで意識があったのに、昏睡状態になられました。」
「声をかけてあげてください。きっと聞こえますから」

 私は上がった息で、父の手を握り、耳元で、何を言ったのだろう?
今まで、本当にありがとう、とか 高校生の時一緒について来てくれたロックコンサート、楽しかったね、とか、いっぱいいろんなことを、この世の楽しいこと、美しいことを見せてくれてありがとう、とか、ああ、 何を話したのだろう?あなたの生き方が好きだったよ、とか。いろいろあったけど、お父さんの娘で本当によかった、とか・・・・。何も、何も、言い尽くせなかった。もっともっと、早く言っておけば良かった。こんなになってからしか、言えないなんて。

でも、混乱した哀しみと絶望の渦の中で、私は父の臨終の場に居合わせる事ができて、不思議な安堵も感じていた。

あの日の「予感」は、父が私にくれた最後のプレゼントだと思っている。

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