2009年5月8日金曜日

救急車

救急車のサイレンを聞くと、いつも胸が痛くなった。
次第に近づいてきて、側を通過していく。音が渦を残して去っていく。その中に自分が乗っているような気がして、父の傍に座り、簡易ベッドを力いっぱい掴んでいた手の感覚を思い出して、涙が出た。
そんなことの繰り返しだったが、最近ーこの1年半くらいは、随分感じ方が弱くなったと思う。
サイレンを聞いても、涙は出なくなった。
お父さんは、もう届かないところへ行ったのだ、と静かに思う。

再入院するのに、必ず救急車をつかってください、とお医者に言われた。私は救急車に乗るのは初めてだった。
小さなベッドに父は縛り付けられ、救急車は発進。その瞬間、上下に左右に、ベッドが揺れ始めた。
こんなに揺れるの?私と母は必死で父のベッドに手をかけた。が、そんなことぐらいで揺れは収まらない。癌が肩の骨に転移して、じっとしていても痛い状態なのに、まるで遊園地のジェットコースターみたいな激しい揺れ。サイレンを鳴らす以上、早く走らなければいけないのか、スピードを上げると父の体がベッドの上を何度もバウンドした。
痛みで唸り声を上げ続ける父。 15分ほどの距離がとても長く感じた。
どうして病人を乗せる救急車が、こんなにひどい構造になっているのか、理解に苦しむ。あれでは怪我や病気の重篤な人は状態を酷くしてしまう。

父の乗った救急車だけの問題なのか、それとも救急車はみな似たり寄ったりの作りなのか、わからないが、せめて揺れを少なくするようにゆっくり走ってほしかった。病院に着いてから、父は、癌になって初めて周囲に怒りを爆発させた。よほど辛かったのだろう。
あの時、もっとゆっくり走って!となぜ私も母も言えなかったのだろう?
悔いが残る。

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