2008年9月8日月曜日

「幽霊人命救助隊」  高野和明著

 高2の甥っ子S君が面白い本だとKに薦めたと聞いて、今日日の高校生はどんな本を読んでいるのかいな?という興味半分で読み始めた。

 自死した4人が神の命により現世の自殺志願者たちを救う物語は、劇画のような軽さですいすい読み進められる。文庫で600ページ近くある。5分の1程度読んだ時、このまま最後までこの調子で、100人救う目標達成に向かって同じテンポで進むのか、と思うと何か芸がないような、肩透かしのような気もした。

 しかし、自殺志願者一人一人を救うため、かれらの悩みを理解しようとする主人公たちの奮闘振りを読んでいて、はたと気が付いた。作者はあまたの自殺者たちの悩みをこれでもか、これでもか、と広げて見せながら、その悩みの一つ一つに対して、シンデハイケナイ、シンデモウカバレナイ、イノチハアタエラレタブンダケウケトレ、とくどいほど丁寧にメッセージを発しているのだ。600ページの長さは、自殺予備軍の人たちに翻意を促す説得と考えれば、作者にとって、必要最小限の長さに違いない。作者の志は善し。話も面白い。現代の病理を的確に描いている点も共感できる。そう考え始めてからは、設定のゆるさや荒唐無稽さも気にならず、怒涛のようにクライマックスまで読み進めた。

最後の一人の救出は、泣けた。作者のメッセージの勝利だ。

 この世の闇(病み)を煩っているのは、自殺しようとしている人たちではなくて、生き辛くしている社会、その歯車を動かしている私たちではないか、ということに気づかない限り、自殺者年間3万人という日本社会の恐るべき数字の説明はつかないと思う。

この作品、中高生だけに読ませるのはもったいない。

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